高山彦九郎は「土下座」?いえいえ、これは「遥拝」!

高山彦九郎って人物を知ってますか?―

“尊王(注1)の父”と呼ばれる人物で、延享4年(1747)に上野国新田郡細谷村(現在の群馬県太田市細谷町)の豪農の家に生まれました。幕末好きなら知ってて当然、知っていなきゃおかしい人物です。

※注1 尊王
よく「尊王」と「尊皇」を同じ意味で使用するケースが多いのですが、この2つの用語は全く意味合い(イデオロギー的な)が異なるので注意しましょうね!「尊王」とは中国の幕末・維新期に思想から生まれた語で、「王権を尊ぶ」という意味として使われます。これに対して「尊皇」は「天皇を尊ぶ」という意味となり、昭和戦前期のファシズム的軍部のイデオロギー用語に使われました。


京都市東山区の三条大橋東詰南側には高山彦九郎の銅像が建っています。

この彦九郎さんの銅像と碑(正確には「高山彦九郎先生皇居望拝趾」)は、明和元年(1764)18歳になり、尊王思想を広める大学を京都に建てるのを目的に遊学に来た彦九郎さんが三条大橋から内裏の禁裏御所(=天皇が住む住居)があまりにもお粗末である事に心を痛め、御所の方角を向き、そこに御座おはします主上おかみ(天皇)に対して拝礼(=遥拝)し、「草莽の臣、高山彦九郎」と名乗って号泣したというエピソードを再現しているのです。

この逸話に基づき、昭和3年(1928)に昭和天皇の即位の大礼が京都で行われたのを記念して、時の内閣総理大臣・田中義一が発起人となり、東郷平八郎元帥が題字を揮毫され、旧東海道の五十三次の起点でり終点でもあるこの三条大橋東詰にこの彦九郎さんの銅像が建立されました。しかし、昭和19年(1944)に金属供出のため撤去され、昭和36年(1961)に再建されたものが現在に至っています。

この銅像、結構な割合で災難が続いているんですよ!―

(エピソード1)
まだ京阪三条駅が地上にあった頃のお話―

昔、彦九郎さんの銅像の後方あたりに歩道橋が在ったのですが、ある時期、この歩道橋を渡って通学する華頂女子と当時の家政(現在の京都文教)の女子高生たちがこんなクレームを言い出します―

「下から覗かれているようで気持ち悪い!」

(お前らが生まれる前からこの場所に鎮座しとるのに、お前らごときに何ぞに言われたないわぃ!と彦九郎さんも思ってた事でしょう!が…)

それが社会問題に発展しちゃって、この場所から彦九郎さんの銅像を撤去・移動しようって話が持ち上がっちゃいました―

(エピソード2)
京阪三条駅が地下に潜る事となり、歩道橋も撤去され、道路拡張の計画が進行したさなか、彦九郎さんの銅像も邪魔にあたるとこれまた撤去・移動の話が持ち上がりました。

結局、彦九郎さんの銅像を迂回する計画が再検討され現在に至っています。

(エピソード3)
京都での待ち合わせスポットとして今も昔もこの彦九郎さんの銅像が言われる事が多い(=東京・上野の西郷さん的感覚?)のですが、昨今の学生さんたちはこの彦九郎さんの銅像の事を「土下座像」と言っているんだとか―

すなわち、「今日はどげざまえに集合!」ってな感じなのだそうです。

オイオイ、ちょっと待て!…「どげざ」って、これは「遥拝」ですよ!…

「土下座」しているんだったら、顔を上げちゃいけないでしょ!

彦九郎さんは御所に御座おはします主上おかみ(天皇)に対して最大の敬意を表して拝礼している姿なんですよね。

それで想い出したのですが、昔、地方から上洛した大学時代の友人が「これ、誰に誤っとんのん?」と聞いてきた事がありました。

“あっ、そういう観方もあるんや!”と感じて、深く考えたのですが、「誤ってる=誰に?」って考えた時、主上おかみ(天皇)に対してちゃうのかな、という考え方を導き出した事があります。

彦九郎さんが上洛したのは上記の通り、明和元年(1764)になりますが、ちょうどこの時期から遡った宝永5年(1708)3月に起きた宝永の大火により、南北は今出川通以南から四条通まで、東西は鴨川から堀川までの地域が灰燼に帰しています。火災後に書かれた落首には「見渡せば/京も田舎となりにけり/芦の仮屋の/春の夕暮」(『元禄宝永珍話』)とあり、かなり荒廃していた事実が判ります。

朝廷独自ではなかなか復興の目処が立たなかったでしょうし、そんな京都の姿や禁裏御所の様子を彦九郎さんは目の当たりにしたのかもしれませんね!!

― ◇ ◇ ◇ ―

京都の五花街ではこんな謡曲が唄い継がれています―

人は武士/気概は高山彦九郎/京の三条/橋の上/はるかに皇居をネ/伏し拝み/落つる涙は/賀茂の水/サノサ

幕末期に彦九郎さんを尊敬し、万延元年(1860)9月13日には細谷村の高山氏の墓を訪れた(『東行先生遺文』)事もある長州藩の高杉晋作が作った俗曲「さのさ節」といいます。


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