生死を分けた15段―天明3年の浅間山大噴火において

鎌原観音堂

天明3年(1783)8月5日の四つ時(午前10時頃)、浅間山が大噴火を起こしました。

浅間山は日本を代表する活火山で、伊豆大島や阿蘇山、雲仙岳などと並んで最高度の警戒が必要と指定されている12の火山の1つに当たります。

標高2568m。群馬・長野両県境に東西15km、南北35kmに裾野を広げています。

天明年間以外にも、縄文古墳平安時代に大噴火を起こしており、最近では平成16年(2004)9月の噴火が記憶に新しいところですね。

さて、この時の大噴火は―

実は、噴火が始まっていたのはこの年5月9日からで、小規模から中規模の爆発を繰り返し、断続的に軽石や火山灰を降らせていたそうです。土地の人たちはどうしていたのか…

平成9年(1997)、火口から20kmの長野原町で、泥流に埋まった畑が発掘されました。畝に、作物の成長に合わせて土を株に掻き集める「土寄せ」の痕跡が残っていて、その土には、軽石も混ぜ込まれていたのだとか―

農民たちは、大噴火の直前まで毎年の通り、丹念に畑仕事を続けていたんですね。噴火が日常的だった事を示しているし、この土地に住む人たちはそうした環境と共存していたわけです。

しかし、8月5日の大噴火はそうした彼らの生活を一変させます。

火炎黒煙相交錯して乱騰し
…(中略)…
ひらめく電光亦凄絶のきわみ。加ふるに岩石火玉の投下
…(中略)…
群雁の舞ひちぎるるが如く、落下の音響は天を震はし地を動かし
といった様に、溶岩流(鬼押し出し溶岩流)と火砕流が北麓を走り、土石雪崩となって吾妻川流域に流れ込み、地形によって高さ100mまで膨れ上がった泥流が谷間の家や田畑を次々と呑み込んでいきました。

泥流が流れ下った群馬県側の長野原町や嬬恋村鎌原地域では大噴火による死者が約1500人にものぼったそうです。

この天明の大噴火で発生した泥流は時速120kmの速さと推定されていています。

火口から北に10km余りに位置する鎌原かんばら村(現、群馬県吾妻郡嬬恋村大字鎌原地区)では、

熱湯一度に水勢百丈余り山より湧出し
…(中略)…
其跡は真黒になり
…(中略)…
一山に鎌原の方へおし、谷々川々皆々黒煙一面立。ようすしれがたし
という状況で、村人たちは悲鳴を上げながら高台へと殺到しますが、間に合わず、あっという間に呑み込まれていきます。

埋没階段

結果、鎌原村一帯は、477人と共に一瞬にして地中に消えてしまいます。奇跡的に助かったのは高台の観音堂に駆け上がり、残った15段より上に居た93人のみ―

鎌原村・生存者一覧

昭和54年(1979)、厚さ6mの土砂に埋まった旧鎌原村で、唯一残った観音堂とそれに続く15段の石段の下から、残りの35段が現れ、2人の女性の遺体が折り重なって見つかりました。

埋没した石段から発掘された女性2人の遺体

髪の結い方から40代と60歳前後の2人とみられ、若い方が老いた方をおぶったような感じでした。母と娘、あるいは姑と嫁―「生死を分けた15段」まで届かなかった命です。

遺体は口を開け悲鳴を上げていた様子がみられたそうです。

天明の大噴火後、観音堂に逃れ生き残った93人は、家族と家、田畑を呑み込んだ土の上で、新しい村づくりを始めます。

しかし、噴火以前には93軒あった鎌原村も、30年後にはも20戸ほどしかない状態で、復興はそう容易くはいかなかったようです。

それでも、力を合わせた復興の証しが、現在は別荘地になった楢の林の一角に残っています。

幅2m、高さ1mに積み上げられた溶岩石の水路跡。天明の温泉引湯道ひきゆみち、と呼ばれるのがそれです。

鎌原村近くの富農が、溶岩流の先端に近い場所から湧いた湯を利用し、10km余りの湯道を引いて、温泉を開いたのだとか―今で言えば、復興救済事業の一環ですね。

浅間山の天明大噴火を生き残った鎌原観音堂には毎日、地元の住民らが集い、訪れた観光客らに噴火の歴史を語り継いでいるのだとか―

近くには嬬恋郷土資料館があり、大噴火で埋没した旧鎌原村からの出土品や絵図、噴火による被害を示す模型が展示され、当時の村人の暮らしぶりと、村を襲った悲劇を伝えています。

― ◇ ◇ ◇ ―

※(参照)津波に消えた豊後沖ノ浜→
※(参照)実録「岸辺のアルバム」―狛江水害(多摩川水害)→
※(参照)安政の大地震とその被災記録→


  


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posted by 御堂 at 02:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史:コラム
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