山城国宇治郡と久世郡の境界線―中世期の平等院は宇治郡だった!―

現在の宇治市域は、昭和26年(1951)に宇治郡の東宇治町と久世郡の宇治町・槇島村・小倉村・大久保村が合併して成立しました。

宇治郡久世郡の境界線は?というと―

宇治川を挟んで川筋の

 右岸(東部)が宇治郡
 左岸(西部)が久世郡

になっていたんですよね。

ところで、こんな云い伝えがあります―

宇治に宇治なし、久世に宇治あり
すなわち、宇治郡には宇治郷がなく、久世郡には宇治郷が存在する、といったものです。

平安中期の承平年間(931〜938)にしたごう撰による和名類聚抄わみょうるいじゅしょう(あるいは倭名類聚抄、和名抄、倭名抄とも)という、今でいうと国語辞書や漢和辞書など、百科辞書の要素を含んだ書物の最古の写本で平安末期に写された高山寺こうざんじ本には宇治郡宇治郷のみが記載され、久世郡には宇治郷の記載がありません。

ところが、同書の慶長古活字本(古活字本とは、文禄年間〔1592〜96〕から慶安年間〔1648〜52〕頃までの間に日本国内で刊行された活字印刷本の総称)には宇治郡にも久世郡にも宇治郷が記載されているのです。

その後、文禄年間に豊臣秀吉による宇治川の河道改修が行なわれて以降、江戸期から現在に至るまで、上記のように宇治郡久世郡の境界線は宇治川を挟んで、右岸(東部)が宇治郡、左岸(西部)が久世郡とされました。

そのために「宇治に宇治なし、久世に宇治あり」というように皮肉めいた云い伝えが生じたようです。

― ◇ ◇ ◇ ―

さて、かく申す私も宇治市民のはしくれですが、宇治郡久世郡の境界線は宇治川を挟んでのもの―と信じて疑いませんでした。

しかしながら、槇島まきのしまの事を調べていくうちに面白い発見をしたのです。

それは、平等院が少なくとも中世期宇治郡に所在していたという事実です。(ちなみに、槇島地域も宇治郡なんですよ…)

次の史料は治暦4年(1068)3月29日付で出された『太政官牒案』で、ちょうど時期的に藤原氏腹の後冷泉天皇が崩御する直前の緊迫した時期であり、次期帝に藤原氏腹でない後三条天皇が即位するとなると、摂関家も整理の対象となる荘園整理令延久の荘園整理令)が実施行される事が判っていたため、宇治殿=藤原頼通が先手を打って、自領の荘園と寺領(平等院境内地)を私領から整理令の及ばない官省符荘荘園にしたうちの平等院に関するものですが、

治暦4年(1068)3月29日付『太政官牒案』(『禅定寺ぜんじょうじ文書』、『平安遺文』所収第1024号)

太政官牒  平等院

 …(中略)…

 四至 東限近江国  南限□□  
    西限久世郡堺 北限浄妙
その中で平等院を含んだ寺域が記載されているのですが、注目するのは「西限久世郡堺」とある点です。

すなわち、宇治郡の郡境は宇治川を渡って平等院の西端であって、そこより以西から久世郡であるという事―

という事は、宇治郡宇治郷は宇治川の両岸にまたがっていた事―

が判明しました。まとめると、

中世期において、宇治川上流(宇治橋より)では宇治川を境に宇治郡久世郡が分かれていたのではなく、平等院の西端(現在の宇治市宇治蓮華れんげ)が宇治郡久世郡の境界、すなわちあがた通りを挟んだ宇治市宇治妙楽みょうらくより以西が久世郡だったという事になります。
それが、文禄年間の豊臣秀吉による宇治川の河道改修や槇島築堤などで宇治川左岸の宇治郡の一部が久世郡に編入された事で、宇治郡久世郡の境界線は宇治川を挟んで、右岸(東部)が宇治郡、左岸(西部)が久世郡とされて現在に至っている訳です。

― ◇ ◇ ◇ ―

では、宇治川左岸の宇治郡の一部が久世郡に編入されたのは何時の時期でしょうか?

そのヒントとなる史料を見つけました―

江戸期に入った正保3年(1646)12月に摂関家近衛家の当主・尚嗣ひさつぐ平等院の諸堂の修造に関して記した『平等院由緒書』というものがあり、その中の冒頭部分で「山城國宇治郡平等院」(陽明文庫蔵、『開創九五〇年記念 国宝 平等院展』図録、図版85)と記載しているんですね。

―という事は、 この時点ではまだ平等院の所在は宇治郡にあった事になりますね。

― ◇ ◇ ◇ ―

※(参考)藤本孝一「山城国宇治郡と久世郡境界考―二つの宇治郷を中心にして―」(『中世史料学叢論』思文閣出版)
※(参考)藤本孝一「平等院の創建と位置附け」(『鳳翔学叢』第3輯)
※(参考)『開創九五〇年記念 国宝 平等院展』図録


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posted by 御堂 at 03:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史:コラム
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